小さな口を開け、小さな目を細めて、小さな手は何度も空を掴む。
 小さな足に、指に、爪に、改めて驚く。
 小さな頭に、鼻に、耳に、目に、口に。
 小さな小さな、生き物に。

「そんなに熱く見つめてたら、この子、火傷しちゃうよ」
「火傷はだめだ」
「……いや、冗談だから。あんたどこまで親ばかなの」
「しかし…」

 しかし、小さな子どもの小さなすべてが、不思議で、不可解で、こちらの視線を敏感に受け取って怪我をすることとてありえる気がして。
 ―――そこに世界中の神秘が詰まっているのではないかとまで思う。
 小さな彼の子どもは、口をぱくぱくさせながら手を伸ばす。彼はその口が三角形を描いて見えて、やはり不思議で首を傾げる。ちょいちょいと指でその手に触ると、きゅっと握られて驚く。
 嗚呼、この子はとても小さくて、それなのにその命の火はこんなにも己の胸を温めるから。
 不思議で、幸せで、悲しくて、嬉しくて、目を離せない。

「あーあ、とろけちゃって、まあ」

 妻の呆れ顔を睨みつける暇もない。
 もう一方の手の人差し指で、そっと、そっと、頬に触れる。
 やわらかい。あたたかい。いとしい。
 小さな口を開いて、また三角形を描く。くちびるの形を見て己に似ているのかと不安になり、細く開けている目を見て母親の面影を見つけて。
 まさに、一喜一憂。

「こりゃ、しばらくはべったりですな」

 妻が、母の顔で笑っているのが分かる。
 それにちらりと微笑んで、人差し指を握る小さな手を、親指の腹で撫でた。




















2006/05/27

親ばかスネ。第一子にべたべた。普通にちゅーとかしてそう。