「初めて会ったのは2,3歳の頃だったらしいだけど、惜しいことに覚えてねぇんだよなー。まあ、とにっかく小せえ頃から好きでさあ、でもガキだから突っかかることしかできねえんだよな、コレが。……あー…そこは今もなんだけどよ」

 長い指でくるくると、ガムテープを回しながら言う彼は、

「昔っから人形みたいに可愛くってよ、あいつ以外なんて目にも入らなかったね」

 でれでれした笑みを浮かべていても、その顔は確かにハンサムである。
 一体何人の女の子たちが、彼に熱い視線を送ってきたのだろう。けれど、

「昔は素直だったし、優しかったし、今よりずっとよく笑ってた。俺の馬鹿みたいな冗談にもさ、声あげて笑うんだ。ほんと……」

 彼の心に棲むことが許されたのは、ただ一人だった。

「ほんと……あのころは幸せだったんだよなあ…」

 吐息と共に紡がれた呟きは、ゆるりと溶けて消える。

「俺がグリフィンドールに入っちまってよ、それだけで全部が全部ひっくりかえっちまった。親は期待するのをやめて俺の不手際を嘆くばっか。家は弟が継ぐことになったんで、俺は用なし。せめて問題を起こさずに大人しくしてて欲しいところが、仲間とつるんでこんなんだしな。あいつも親に色々言われたんだろうさ、態度がコロッと変わっちまった」

 ガムテープを弄ぶ手を止めて、重い溜息と共に頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
 憂いを帯びた目を伏せるその姿は、まるで映画俳優のようだ。勿論、彼は映画俳優ではない。そんな単語を知っているかさえ怪しい、名高い純血一族の元嫡男。

「でもなあ?」

 純血主義の一族に生まれながら、グリフィンドールに所属する男。

「親から見離されたのも家が継げなくなったのも全然構わない、むしろ嬉しいくらいなんだけどな、やっぱそれでも、あいつに近づくヤツがいるのは気に入らないわけよ」

 そして、その端正な顔立ちと、

「ってことで、ま、怨むんなら可愛すぎるあいつと、あいつにアプローチしてた自分を怨めよ」

 繰り返す破天荒な悪戯で有名な、

「ああっ、と忘れてたあ! そうそう。このこと誰かに喋ったりすると、自動的に一年間は消えない素敵な模様が顔に浮かんでくる呪いかけといたから。ま、そんなことしねぇと思っちゃあいるが、くれぐれも気ぃつけてな」

 ジェームズ・ポッターの相棒、

「あと余計だけど、このテープさ、俺とジェームズがつくった特性のヤツだから、はがすときはある程度覚悟してやれよ。凄まじく痛ぇから」

 シリウス・ブラック。



 爽やかな笑顔を残して消えた彼の後姿を、背中にまわされた腕を(ポッター&ブラック特性の)ガプテーブで縛られ、ご丁寧に口もそれで塞がれた姿で、愕然と見ていた。
 鼻歌を歌いながら廊下をゆくシリウスは、夜明けまでに彼が発見されることを祈って、こっそり笑った。




















2005/11/25

 期末テスト前に何をしてるんだろう、っていう学生管理人の呟きは冬の夜空にのぼっていきました。