ここ数日、わたしの彼氏さんは何やら考え事をしているご様子。 別に頭を抱えて唸っていたわけではないけど、いつもより少しだけ自分の世界に浸る時間が長いので、分かる。 ときどきちらりとわたしを見るから、考え事の内容も察しはついている。だからわたしは、気付いていないふりをしている。悶々と悩んでいる彼の姿は結構珍しいから、正直それを少し楽しんでもいる。 が、そんな日々もそう長くは続かなかった。 元来、セブルス・スネイプという男は、それほど気の長い性質ではない。 「で」 脈絡もなく唐突に切り出すのも、彼の癖だ。 「何がいいんだ」 「何が?」 わざと惚けて聞き返す。 セブルスもそれがわざとだと分かっているから、仏頂面がますます無愛想になる。 わたしはそれを笑う。 「…………………………24日のだ」 「24日のなに?」 「……………あれだ」 「あれって? 駄目だねえ、セブルスくーん。それじゃ愚かなわたしにはとても分かんないよー」 「………いらんのなら私は別にいいんだがな」 「え、いるよ! いるいる!!」 子どものように不機嫌になってしまったので、これ以上へそを曲げられる前にと慌てた。彼はやらないと言ったら本当にやらない人だ。 わたしの慌てぶりを見て、彼はにやりと笑った。悪戯に成功した子どもみたいな、あまり人には見せない笑みだ。 …悔しいが認めよう。役者はあちらが一枚上手だ。 「つまり、プレゼントのこと?」 「それ以外に何がある」 ふんと鼻で笑う人を馬鹿にした仕草が、彼らしい。(それもどうかとは思うけども) 「うーん、これと言って特に注文はないなー」 「お前はいつもそれだな」 呆れたような響きに、首筋を掻いて笑った。 「無欲な乙女と呼んでください」 「……乙女、ねえ」 「文句ある?」 「別に?」 彼は空になったグラスに、ブランデーを注ぎながら肩を竦めた。氷がからんと鳴った。 わたしは、ブランデーはあんまり好んでは飲まない。ワインの方がいい。ブランデーの美味しさが、分からない。それを子どもだと言って笑われる。 「セブルスは何が欲しい?」 「研究費」 「金かよ」 「何かと入用なんだ」 「ロマンもへったくれもないね」 「知らないのか? 近頃はロマンスも金で買うんだ」 「へえ? 購入されたご経験が?」 「残念ながら、今のところは売る側に甘んじている」 「そりゃご苦労さんです。繁盛してる?」 「それなりにな。お前もどうだ?」 「消費者センター直行は確実だね」 「失敬な」 あんたの売ってるロマンスなんて、どこをどう信用しろと。 自然と浮かぶにやにや笑いを、セブルスはグラスで隠し、わたしはおつまみを咀嚼することで誤魔化した。 「プレゼントかあー」 あれこれと一応、悩んではみたのだ。 欲しいものがないとは言わないが、彼が人目を気にせず買えるものなんて限られている。 「んー……………キングサイズのダブルベッドとか?」 ごふっ セブルスが咳き込んだ。 ブランデーが気管に入ったのだとしたら、かなり辛いだろう。とりあえず、吹き出さなかったところに、心の中で拍手を送る。 病気がちのお爺ちゃんにしてあげるように背中をさすってやっていると、振り返りざまに頭を叩かれた。 「くだらん冗談を言うな!」 「やだなあ、ジャパニーズ冗句よダーリン。そんなことでイチイチ怒ってたらそのうち血管ぶち切れちまいますのことよ?」 「お心遣い痛み入るがね、お嬢さん。淑女には言っていい冗句と悪い冗句があることをご存知ないのかね」 「わたし箱入り娘だから、世間知らずなの」 「嘘こけ」 「酷いなあ」 声を押し殺して笑うと、彼はため息をついておつまみを口に放り込んだ。 まるでそれが苦虫であるような顔をして噛み砕くので、堪らず声を上げてしまった。 「せいぜい楽しみにしてろ」 唸るようにかけられた言葉に、胸を弾ませる。 「わたしに勝てると思うのかね、セブルスくん」 1本立てた右手の人差し指を、ワイパーのように振って、にっと笑ってみせた。 彼はブランデーをもう一口飲んで、映画に出てくるマフィアのボスのように、にやりと笑うのを返事にした。 …絵になっているのがちょっとだけ悔しかった。 2005/12/19 クリスマスらしい奥ゆかしさの欠片もない下らない話で申し訳ありませんでした…。 ところで、彼らが贈りあったものとは? A:蛍光ピンクのストールと、クリツマスツリー(2メートル弱)。 B:安いワインと、芋焼酎。 C:マナー入門書と、歯磨き粉。 さあどれだ? (↑この辺りのあとがきはお好きにカットしてOKです) 佐倉 真 |