真っ直ぐに来たのなら、とうに此処に着いているはずだ。
 ダンブルドアかマクゴナガル辺りに訊いたのならば、確かにこの、この家へ。
 しかし、此処から見る限り玄関に人影は、ない。

 いない。

 先程まであれほど急いていたはずなのに、それを確認した途端スネイプの歩みは普段よりずっと緩慢になった。

 己が不在であることを知り、帰ってしまったのだろうか。
 不安めいたものが、靄のように胸を覆う。落胆にも似ている。その正体を見極めることはできない。見極めたくもない。ただ不透明なのが疎ましい。
 目を心持ち伏せて、小さく溜息をつく。次に胸を覆うのは諦めか。

 ゆっくりと小さく段になった一線を越えて、自分の所有物たる土地へ足を踏み入れる。
 と同時に。
 伏せた視界の隅で、不意に何かが動いた。

 弾かれたように顔を上げる。
 動いたのは、玄関に蹲る小さな塊。
 膝を抱える細い腕。抱えた膝に埋めた顔。無造作に肩を伝う長い黒髪。東洋人特有の肌の色。
 そして。

 それは、顔を上げた。




「……セブ、ルス?」




 確かめるように、紡がれた名。
 馴染み深い己の名なのに、酷く懐かしく響いた。
 紅い瞳が、揺れながらも此方を見ている。
 それを見ながら、胸を覆っていた靄が、ゆるゆると溶けていくのを感じていた。やがて、口が、舌が、無意識に動いた。

「他の誰かに見えるのか?」

 彼女は驚いたように目を丸めて、それから耐え切れなくなったように俯いた。
 蹲っていたそこから腰を上げる。どんな顔をしているのかは、髪に隠されて見えない。
 次に顔を上げたとき、彼女の口の端には小さな微笑みが浮かんでいた。

「いやあ一瞬ダンブルドアに見えちゃったよ。セブルスも老けたもんだね」

 揶揄するような響きに、片眉を上げて見せる。

「ダンブルドアだと? ハッ、お前の目は相変わらず風穴だな」
「セブルスも相変わらず失礼だね。礼儀作法はとうとう今日まで学習しなかったわけだ?」
「喧嘩を売っているんだろうな?」
「3の日セールがお得です」

 懐かしい。懐かしい。懐かしい。思いの濁流が息を、言葉を詰まらせる。
 誤魔化すように扉に向かってパスワードを唱える。かちゃん、と鍵の開く音がする。
 重い扉を半分ほど開けて、顎でしゃくって家の中へ促す。

「茶ぐらいなら出してやらんでもない」

 彼女は―― は、泣きそうな顔で笑った。


「クッキーは?」


 ……。


「…相変わらず図々しいやつだな、お前は」

「お腹減ったんだもん」




















2005/09/13

 「短っ!!」
 というツッコミをパソの前で口にした方々の数をできることならカウントしてみたいもんだね。